『仙人入門』 著 高藤聡一郎(1983)大陸書房

 

 高藤聡一郎氏の仙人シリーズの第1作目です。実家の本棚に眠っていたものを、久しぶりに引っ張り出してきたのですが、古い本なのでかなり経年劣化が進んでいました。昔は、大陸書房さんがこのような神秘行関連の本を色々出版されていました。今は地方の小さな書店では、そのような神秘行の本を置いているところはあまり見かけなくなりました。

 著者の高藤氏は元東京都職員と異色の経歴を持ち、語学好きが高じて外国の文化に興味を持ち、世界各国へ放浪の旅に出ます。しかし、放浪での無理がたたり体調をひどく崩してしまい、東洋医学による自力での回復を試みます。漢方薬、食事療法、健康体操、太極拳、はたまた超能力トレーニングまで様々な試みの末、とある古本屋に売っていた仙道書がきっかけとなり、台湾の仙人と言われる許進忠氏の事を知り、そして実際に台湾へ行き許氏に仙道を教えてもらうという経緯です。

 内容は、「仙道とは何か?」に始まり仙道の歴史や道教との関連、派閥、気の仕組み、中国医学と気の運用、仙道体操として簡単な図入りで導引、動功が紹介されています。そして、メインである仙人になる為の基礎・天丹法について、呼吸法、座り方、小周天のやり方、全身周天、採薬までが紹介されています。内容は多岐にわたっていますが、入門書なので仙道や気に興味ある人向けの導入書的なものです。後に続く大陸書房や学研から出版された高藤氏の仙道書シリーズには、より詳細な小周天の修行法や更に高度な修行法が解説されています。

 私も若い頃に、仙人の不老不死というものに憧れて、本書にある武息呼吸の練習をして小周天の完成を目指した事があります。松田隆智先生の書籍にも小周天に触れている記載があったので、中国武術の完成には必要な修行法かもしれないと勝手な解釈をしていたのもあります。武息により下腹部に熱感を感じるところまでは出来るのですが、意識のかけ方が弱いのか、そこから先の段階には思うように進まず、そのうちモチベーションが続かず止めてしまいました。また、仙人体操として紹介されている動功は、中国武術の把式練習、つまり下盤訓練とほぼ同じような動作です。動功の中の『飛竜』という動作を練習すると軽身功のような事が出来ると書かれていたので、これまた熱心にやってみました。しかし、いつまでたってもドタバタ着地するだけで、部屋の中で練習するにはうるさいのでやめてしまいました。もっともこの動作は他の動作の応用で、他の動作をマスターすると出来るようになると書かれてはいますが?

 2020年に極真空手の山田雅稔先生が出版された『武道気功 私の「立禅」修行』には、山田先生が本書等を参考にして独習で小周天を修行した体験が書かれています。同書にも述べられていますが、意拳創始者である王郷斎先生は、初期の頃は周天法(大周天・小周天)を重視していたそうですが、ある時期からこれを否定するようになったそうです。山田先生も小周天を続けるうちに、心身に変調をきたすようになった体験を述べられており、指導者のいない独習で修行を進めるのは危険であるとおっしゃられています。気功でも間違った方法で行うと、「偏差」という気のコントロールが出来なくなる事によって、精神的疾患など心身に変調があらわれると言われております。

 やはり、ただの健康目的だけならともかく、常識を超える心身の改革を目指すのは、生半可な姿勢では出来無いものであると思います。