『神秘の拳法 八卦掌入門』松田隆智 高橋賢 共著(1984)日東書院

 出たっ!!遂に出た!!書店で見つけた当時は、そう思ったものでした。正に神秘の拳法、武壇八卦掌、遂に公開か!?胸を躍らせてページをめくったものです。でも、あれっ!?

武壇八卦掌套路って、もしかしてこれだけ?単換掌と双換掌だけ!!しかも第三章は陰陽八盤掌法ってなってるし。少しガッカリしたのを覚えています。やっぱり宮宝田伝劉公八卦掌は秘伝性が高いんだと自分に言い聞かせて納得したものです。

 第一章は八卦掌の理論、歴史、練習過程

、姜容樵の『八卦掌練習法』からの抜粋で練習上の要訣が載っています。また、徐紀老師の八卦掌に関する論文の抄訳が載っており、大変貴重です。

 第二章は八卦掌の基本技術ですが、主要掌法、四字手法(滾・纘・掙・裹)とその練習法と対練、基本姿勢(倚馬問路)、走圏(䠀泥歩)、扣歩と擺歩、歩法の応用、八卦掌のうち単換掌と双換掌その用法と対練等です。

 第三章は松田先生が組織した中国武術学習団と共に中国の石家荘市で掌門人の徐永祥師範より学んで来た陰陽八盤掌法です。走圏練法に通臂の手法が加えられている八卦掌の一派とも言われる拳法で貴重なものです。

 第四章は高橋賢先生による八卦連環掌です。これは姜容樵先生が張占魁伝のものをまとめたものだそうです。高橋先生は、現在、月刊『秘伝』にて"日本柔術史'"新研究を隔月連載されており、佐川伝大東流合気武術の師範です。高橋先生は以前は福昌堂中国武術誌『武術』で気功法の連載等もされており、日本の古流武術以外にも中国武術や気功法も研究されていらっしゃいます。

 第五章は八卦掌戦闘技術ですが、閻徳華著『八卦掌使用法』を基として再現したものです。かつて劉雲樵老師が松田先生に、"世の八卦掌に関する書の多くは、八卦掌の本質から外れている。まったく純粋な八卦掌とは言えないが、同書は八卦掌の風格を有した技術を多く含んでいて、研究の参考に値する書と言える"とおっしゃられたそうです。

   以前、蘇昱彰老師の八極拳八卦掌の講習会があり、私は八極拳に参加させて頂きました。隣りが八卦掌の講習会だったので、気になって遠目にチラチラ見ていたのですが、八卦掌の基本套路の様なものを学習していました。最初は直線上を反復練習し、その後円周上で練習していました。小開門かとも思われたのですが、何か違うなと思い、その後も結局分かりませんでした。現在、八極蟷螂武藝總館日本分館のYOU  TUBEで八卦掌の基本として八性掌という単式の一部が紹介されています。もしかすると、これだったのかもしれません。また、講習会後の食事会で蘇老師に何でも質問できる機会があり、私が「八卦掌の技法名は動物に白とか青とか色がついているのは何故ですか?」と聞いた時、蘇老師は「気の状態と関係ある」とだけ答えて下さいました。それ以上の事は教えて頂けませんでした。推測するに五行の気とか九星とかに関係あるのかも知れません。

 八卦掌に限った事ではありませんが、中国武術の技法は用法を教えてもらうと、とても危険な技であると気付かされる事が往々にしてあります。以前、拳功房の山田英司先生(松田隆智先生のお弟子さんで番頭)が、そのブログの中で八卦掌の白猿献花の用法について紹介していました。白猿献花は劉雲樵老師の得意技だったそうですが、一見、奇抜で滑稽にさえ見える技法ですが、その用法はとても危険です。教えてもらうと、なるほどと思えるのですが、自分の頭ではなかなか思いつくものではありません。

 私は、八卦掌は四字手法、倚馬問路、扣歩と擺歩、方形練法、基本八掌、小開門を少しかじったくらいで、正式に学習した事はありません。しかし、その奥妙さは計り知れず、やっぱり神秘の拳法だなって、つくづく思います。