『八極拳』劉雲樵 著 大柳勝 訳(1985)新星出版社

神槍・李 書文の関門弟子(最後の弟子)にして、武壇総帥であった劉 雲樵老師の著書です。訳者の大柳勝先生は武壇日本分会の総教練です。

 

大柳先生によれば、

“先年(本書出版当時)、香港の出版社より劉 雲樵著『八極拳術図解』という本が出版された。しかし、これはかつて台湾で発行されていた『武壇雑誌』の八極拳に関する資料を再編集し、アメリカの『ブラックベルト』誌によって取材された劉 雲樵老師の記事を組み合わせて、無断で資料と著者名を盗用され発刊されたコピー版・海賊版であった。そこで、コピーや継ぎはぎではなく、しっかりと系統だった正確な八極拳の姿を理解してもらいたいという劉老師の希望により、武壇学生に八極拳の資料の一部を公開せよとの命令が下され、本書が発刊された”のだそうです。

 

正直この本が出た時には、ついに来たか!!

武壇八極拳!!しかも劉 雲樵老師が著者!!

と、はやる気持ちを抑えられませんでした。

確かに武壇八極拳の核心とも言うべき、小八極拳が紹介されていなかったのは、少し残念な気持ちになりましたが、それでも憧れの武壇八極拳の本を手にして大興奮でした。

 

まず八極拳の特徴として、訓練方法、発勁、実用性など、八極拳の内容として套路、勁道、応用法の解説があります。

そして、基礎功夫として把式、歩法、拳法、掌法、補助鍛錬の解説。また、劉老師自範による把式、八極門柔身六法、大八極の解説はそれだけでも、貴重な資料になり得るのではないかと思われます。他にも武壇師範の表演による八極拳対拆(八極対打)の解説もあります。

この中でも、応用法の解説の中に八極拳の戦闘における心法というか、精神面・意識面の秘訣が述べられており、購入当時はそれほど気にも留めませんでした。しかし、訳者の大柳先生が別の雑誌のインタビューで、劉老師が精神面・意識面の秘訣を繰り返し仰られていたという記事があり、その後、時間が経つにつれてその重要性を再認識しました。自分の推測ですが、意識の持ち方が、技法の威力や効き方に影響するのかもしれません。

また、柔身六法とは劉老師が八極拳等の重要な動作から抽出した六つの簡単な動功です。単純な動作とは言え、真摯に研究すれば、その意味する所は大きく、得るものは計り知れません。私個人的には、擺臂扭腰、左右撑掌、馬歩弓捶の三つはそれぞれ連関・補完しており、深く考え工夫し、繰り返し練習すればするほど、身体操作における大切な気づきが多く、質的転換が図られる重要な動作ではないかと考えています。単純な動作が故に、やればやるほど難しく感じてしまいます。自分の感覚では、擺臂扭腰は、放鬆、沈墜、反発、垂直軸、中心力、旋回、半身、展開、集約等繊細かつ複雑な力の働きを認識する事が出来ます。また柔身六法は主に足から手までの背面側の筋肉や関節、靱帯、腱の強化と柔靱性及び連関性を高め、勁力の増強を図るものではないかと思われます。

訳者の大柳先生が、かつて福昌堂中国武術雑誌『武術』で寄稿したところによると、現在の武壇は徐紀老師が作り上げた長拳をもとにした基礎訓練過程になっているが、大柳先生の年代の方達が学んだものは、劉老師の意図により基礎段階の把式から八極拳のものが訓練過程に取り込まれていたそうです。

重心移動の方向と90度の方向に打ち出す馬弓捶など難しいものが、既に教えられているにもかかわらず、武壇の生徒の中には、いったいいつから八極拳を教えてもらえるのだと言っている人もいたそうです。

今では、YOUTUBEで検索すれば、武壇の高名な老師や師範等により、簡単に武壇八極拳の演武が見られます。もちろん、重要な技法や危険な用法等は意図的に省いたり、改変してあるかとも思いますが、本でしか見ることの出来なかった時代の自分からすれば、夢のような時代が到来したものだと思います。

 

 

 

 

八極拳

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