本書は松田隆智先生と大柳勝先生の共著です。メインは大柳先生による螳螂拳の基本技術、基本六路、『螳螂手』という套路の演武と解説です。
基本技術では螳螂拳独自のものに加え、北派拳法に共通する把式(姿勢)、捶法(突き技)、踢法(蹴り技)などが解説されています。特に踢法では足技の組み合わせ技も紹介されており、『三不落地』や『五連腿』などの大技の跳躍技も紹介されています。
基本六路はかつて松田先生がその著書『写真で見る中国拳法入門』の中でも紹介されていたものと同じです。本書の中でも、『この基本六路は基本がつくとは言え、螳螂拳の中でも 実用度の高い技を取り出したものなので、精通すれば即戦力が充分に得られるものである』と紹介されています。また、この基本六路は本来は硬・軟中間の八歩螳螂拳のものであり、蘇昱彰老師が一部改変したものだそうです。
この基本六路は蘇昱彰老師が設立した八極螳螂武藝總舘においては、基本十二路として指導されています。私も昔、蘇昱彰老師の短期講習に参加した時、基本十二路の内、前半六路(本書の六路とは技法が一部異なる)の学習をしました。蘇老師によれば、最初の段階では一、二、三と一動作毎に区切って正確に練習し、次の段階では二調子で動く練習をし、最終段階では一調子で攻防動作を同時に行えるように練習しなさいと言って、実際にその動きを見せて頂きました。ただし、意図的に速く動こうとするだけではダメで、正確な姿勢と動作を繰り返し練習する事によって自然に速さと威力が伴うようにならなければならないと仰っておりました。
また、松田先生の演武による『七手拳』という短い基本套路も紹介されています。この套路も、八歩螳螂拳の基本対打(組手)の型ですが、これも蘇昱彰老師が七星派、秘門派の技法、特徴を取り入れて改変したものだそうです。また、この套路には一人で練習する独練型と二人で練習する対練型があります。技の連続と相手との間合いや感覚を学びます。
この『七手拳』は、沖縄小林流空手道研心会館館長の故 横山和正先生も、若い時に台湾に渡った際、八歩螳螂拳の名手で実戦派として高名な衛笑堂老師(蘇昱彰老師が八歩螳螂拳を学んだ老師)より学んでおり、この套路が後の自身の沖縄空手の活動に大きな影響を与えてくれたとして、氏の著書『瞬撃の哲理 沖縄空手の学び方』の中で套路を連続写真で紹介しています。
共著の大柳勝先生は現在では武壇日本分会の総教練を務められています。武壇とは台湾の中華國術會 武壇國術推廣中心(現:中華武壇國術推広協会)の略称で、八極拳の神槍 李 書文の最晩年弟子である劉 雲樵 老師が設立したものです。大柳先生は台北武壇で長年修練しその演武は、姿勢が低く正確で定式(動作が極まった姿勢)がとても美しいです。
昔、福昌堂から発売されていた大柳先生の『孫臏拳』の教習ビデオを買った時、初めて見る本格的な武壇武術の動きに非常に感動しました。姿勢の低さや正確さはもちろん、柔らかい中にも体の芯にバネが入っているような、ゴムが弾けるような、常人とは違う異質な動きに、非常に興奮したのを覚えています。
メインの套路『螳螂手』は七星派のもので、その名の通り螳螂拳独特の螳螂鈎手(別名:螳螂手、螳螂爪)を多用する套路です。この套路は前・中・後の三段に分かれていて、前段の三十二式が紹介されています。