螳螂とは昆虫のカマキリの事です。したがって、螳螂拳とはカマキリ拳法となるのですが、象形拳(動物などの動きを真似た拳法)と言うよりは中国北派の総合拳法であり、実戦本位の拳法です。
伝説では中国山東省の王朗が中国各地を修行して歩いて、中国北方名門十八家(門派)の拳法を集大成したものに、螳螂が蝉を捕らえる様子を基に考案した手法と猿猴(サル)の歩法を取り入れたものと言われています。
螳螂拳の主な流派には、技法や動作が激しく迅速な硬螳螂に分類される七星、梅花、秘門。柔軟で伸びやかな技法の軟螳螂に分類される六合。また以上の螳螂拳に形意拳、八卦掌、通臂拳の技法を加えた八歩があります。
本書の秘門螳螂拳は七星螳螂拳から分派したもので、特に低架(姿勢がより低い)と短打(接近戦)を特徴としていて、七星派の細密な手法より更に細密な手法を用い、技法を行う角度に独特の工夫があります。
本書では最も重要な基本套路(型)である『崩歩拳』が紹介されています。著者の松田隆智先生の原作漫画『拳児』の"蘇崑崙"老師のモデルとなった蘇昱彰老師より松田先生が学んだものです。中国北派拳法に共通する架式(姿勢)から捶法(突き)、腿法(蹴り)、歩法などの基本技術に加え、揪腿や螳螂手法などの螳螂拳独特の技術や連環技法も紹介されています。また、段階的練習として領崩歩拳(崩歩拳の対練型⦅約束組手⦆)や拆解崩歩拳(崩歩拳の技を分解して応用技術を学ぶ)なども紹介されています。巻末には韓慶堂老師伝の擒拿術(逆手術)も紹介されており大変貴重です。
基本套路ですが、螳螂拳らしい技法もそこそこあり、私的には揪腿や呑搨扇風、跨虎翻車式(別法:七星天分肘)などの技法がお気に入りです。特に崩歩拳第一路の始めに出てくる跨虎斜補捶が好きで繰り返し練習しています。三才歩からの竪拳による単純な突きですが、前述の漫画『拳児』の中で蘇崑崙老師が米兵を倒した技だったと思います。身体の沈み込みと後腿の踵からの反発力、突きの中心への絞り込みと中心線からの打ち出しと、相矛盾する力が同時に作用する感じが何とも奥深くて面白いです。